注 死にネタな上に勝手な捏造があります。
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「シンク」
彼女の声が聞こえた気がして、部屋を飛び出した。
「決闘をする」と強い決意の光を瞳に宿らせた少女は、仲間が止めるのも聞かず、立会人を連れて自分に背を向け、行った。それでも、風に乗って聞こえてきたのは「必ず戻って、きます」というはっきりとした言葉。小さな後姿が闘志で力強く見えると同時に、どこか不安な色を漂わせていたけれど、「必ず、だからね」と呟いて、信じた。
だから、だから、自室に篭って彼女の帰還を待って、声が聞こえた気がした時には、すごくすごく嬉しくて、ほっとして。
けれど、部屋を飛び出したボクが廊下で見たのは、立会人に優しく抱きかかえられた、変わり果てた彼女だった。
嗚呼、あれは幻聴だったのだろうか。あれは、自分が抱く幻想がそのまま、脳を侵してしまった結果なのだろうか。
「・・・・・・負け、たんだ」
問わずともわかる。にも関わらずそう口にしたのは、自分自身に思い知らせるため。甘い幻想を粉々に砕くため。
帰ってきた彼女が笑顔で自分を呼ぶなんて、そんな、幻想はもう・・・・・・もう。
「お前さんに、預ける」
立会人がいつもと変わらない声色で言う。しかし、その瞳に悲しみの色が浮かんでいるのを、ボクは見た。彼は、彼女が負ける瞬間をその目で見たのだ。彼女の最期見て、最期の言葉を聞いて。
彼女の体を受け取り、ボクは再び部屋へと戻った。目を閉じたままのその姿は、頬の傷や服についた血がなければ、いつもの昼寝をしている様子とまるで変わりがない。今すぐにでも起きてきそうだ。そんなことはあり得ないと、知っているのだけど。
ベッドにそっと横たえ、傍らに腰を下ろす。見下ろしたその顔の、なんと安らかなことか。
「・・・・・・アリエッタ」
名前を、呼ぶ。思った以上に情けない声になってしまった。
ボクは、泣きたいのだろうか。悲しいのだろうか。
捨てたはずの感情、だが、今、確かに芽生えている。
彼女を想う気持ちと共に。
「アリエッタ」
ねぇ、どうして決闘なんてしたのさ?
きみが求めていた「イオン様」は、もういないのに。
戦ったって、何にもならないじゃないか。
どうして生き急ぐような真似をしたんだよ。
ねぇ、どうして。どうして。どうして。
「・・・・・・・・・・・・ク・・・・・・」
こえが、きこえた。
「シン・・・・・・ク・・・・・・」
小さな声がボクの耳を通って脳まで届き、薄っすらと開かれた目が僕を映し出し、弱々しく上げられた右手がボクの頬に触れた。
「・・・・・・アリ・・・ッ・・・」
「シン、ク」
ふっと微笑むように目を細め、細く長く吐き出した息を共に、彼女は囁くに言った。
「だいすき・・・・・・」
息を吐ききった時、その目は再び閉じられて、右手が重力に従ってパタンを落ちた。
そして僕が何か言う前に、する前に、彼女は微笑を携えたまま、空中に溶けて、消えた。
分解された音素が空気中に散らばり、最後の輝きを僕に見せつけて、永遠に、なくなった。
「シンク」
耳について離れない。きみのこえが。ボクを呼ぶこえが。
もう聞けない、聞こえない、きみの、こえが。
不思議なことに、涙が出た。頬を伝って口元に落ちてきたそれを舐めると、塩辛い味がした。
ボクは生きている。レプリカだけど、生きている。そして、彼女は死んだ。
理解出来ないほど子供じゃない。受け入れたくないと駄々をこねるほど馬鹿じゃない。そして、悲しいと口に出来るほど大人でもない。
明日になれば切り替わる。きみのいない世界に。ボクだけの世界に。
だからだから、せめて今だけは。今だけは。
「・・・アリエッタ・・・・っ」
きみを想うボクでいたい。
もう聞けない。聞こえない。きみのこえ。ボクを呼ぶこえ。
待ってて、もうすぐいくから。そばにいくから。
そうしたらまた。そうしたらまた。
どうか、ボクを呼んで。
end
アリエッタが死んだ時、消えずに身体が残っていたので、
もしかしたらあれは瀕死の状態だったのであって、あの後シンクに
一目会えたとかないかなーと妄想して出来たもの。
そうでなければ、あまりにも切なすぎる・・・。
最初、消えるのはレプリカだけかと思ったんですが、
ラルゴやフリングスも消えていたので間違いではない・・・はず(自信なさげ)
2006.8.1.ありさか
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