「これ、おまけです。良かったら食べて下さいね」
そう言って可愛らしい顔立ちをした女性店員は、ガイが購入したアイテムの袋に飴玉が入った瓶を入れた。「ありがとう」と言いながらガイは袋を受け取り店員に微笑みかけると店を出た。外は青空が広がるいい天気で、明るい日差しが地上を照らしている。本日、買出しの当番に当たっていた彼は日光浴を楽しみつつ宿屋を目指す。
袋の口からちらちらと覗く瓶を見ると、歩く度に振動が伝わって中の色とりどりの飴玉が揺れている。見たところ、パーティ全員に配ってもいくつか余るほどの数がある。軽いおやつに、と女性陣に渡してしまえばいいだろう。アニスあたりが、きっと喜んで受け取るだろう。
そう考えていると、前方に見慣れた後姿があった。長い髪を揺らして歩いているのは、ティアだ。自然と口元が緩む。こんなところで会えるなんて、今日はツイているなと思う。少し歩みを速めて彼女に近づき、名前を呼んだ。彼女はくるりと振り返り、ガイの姿を見ると「あら」と小さく微笑んだ。
「買出しの帰りね? ご苦労様」
「ありがとう。君は?」
「私は、散歩。いいお天気だから」
何か持ちましょうか、というティアの申し出を断り、共に宿へ戻る。女性恐怖症なガイは彼女との距離を少し空け、それでも隣りを歩き、歩調を合わせた。
しばらく他愛のない話をしながら歩いていると、ふと飴玉の瓶のことを思い出した。
「そういえばね、店員さんが飴玉の瓶をおまけしてくれたんだ」
「本当? ふふっ。もしかしてその店員さん、女の人でしょう?」
「ん? うん・・・・・・まぁね」
歯切れの悪い返事をするとティアはくすくすと笑い、「モテモテね、ガイ」とからかうように言った。
――君にもてなきゃ仕方がないんだけど
なんて、歯の浮くような台詞が頭に浮かんだが、もちろん口にはしない。その代わりに「色男は大変だよ」と軽口を返した。
宿までの道のりが短くなる。戻ればもう、彼女は自分の隣りにはいなくなってしまうだろうと思い、少し寂しくなる。もう少し二人きりでいたい。もう少しだけ、彼女を独り占めしていたい。
「・・・・・・ティア」
歩みを止めて彼女を呼ぶ。数歩、前に出ていた彼女が「何?」と振り返る。ふわりと揺れる長い髪がとても綺麗で、彼は一瞬、見惚れてしまった。「ガイ?」と言う声にはっと我に返り、反射的に得意の笑みを浮かべた。
「ちょっと、寄り道していかないか?」
「寄り道?」
「そう。さっき、ベンチがあっただろう? そこで軽いおやつでもどうだい?」
言いながら、ガイは袋から瓶を取り出してティアに見せた。少し躊躇して見せた彼女だったが、ガイの「付き合ってくれるね?」という言葉と笑みに、仕方ないわねというような表情で頷いた。彼女は普段、意志の強い凛とした女性というイメージが強いが、こういった時、すぐに折れてくれる優しい面もきちんと持ち合わせている。時と場合による、とでもいうのだろうか。
ベンチへと戻り、一人分の間を空け、そこに袋を置いて腰掛けた。瓶の蓋を開けると甘い匂いが香る。どうぞ、と瓶口を向けてやると彼女の手が伸びてくる。触れるわけではないと理解はしていても、反射的に体が強張ってしまう。あーあ、と桃色の飴玉をつまむ彼女の指先を眺めながら心の中で溜息をつく。この分では、彼女に直接触れられる日は遠い。
「ありがとう」
「いえいえ」
「・・・・・・甘い」
飴玉を口含んだティアが呟く。彼女に微笑みかけ、ガイも飴玉をつまんで口に入れた。じわりと、唾液と共に広がる甘み。
ああ。
この飴玉が溶け出すたびに、自分の想いが彼女に染み渡るといい。
そして、少しでもこの想いが、伝わるといい。
触れられない分まで。
飴玉を口の中で転がしながら、ガイはそう、思った。
end
ガイ様の口調がイマイチ掴めません。
2006.8.15.ありさか
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