ディストは子供が嫌いである。自らの感情を剥きだしにしてすぐに泣いたり笑ったり、何より論理的ではない。破天荒なことを言ったりしでかしたり、見ているだけで苛立つのだと彼は主張する。昔は自分も子供であったという事実は棚に上げて。鼻水を垂らして幼馴染二人にいじめられていたという過去を忘れたふりをして。
「だから、私はあなたが嫌いなんですよ」
おわかりですかと念を押すように言うと、桃色の髪をした少女は「う・・・」と泣きそうな声をあげ、お世辞にも可愛いとはいえないぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
自室に篭って研究の成果をレポートに書き留めていると、少女はノックもせずに部屋に入ってきた。何の用ですかという言葉の裏に込められた「それ以上部屋に足を踏み入れるな」という真意を彼女が汲み取るはずもなく、机に向かうディストの横にちょこんと立って、「アリエッタは、ディストが好き、です」などと唐突に言うものだから、彼は論理的に、自分が彼女を嫌いだということを説明してやったのだ。
これで泣いて帰るだろうと思っていたら予想は外れ、目に涙を溜めつつも彼女はその場に留まった。
「・・・それでもアリエッタは、ディストが好きだもん・・・」
「・・・まだ言いますか」
やれやれ、と額に手を当ててわざとらしく悲観的な仕草をする。ちらりとアリエッタを見ると、彼女は上目遣いにじっと彼を見つめている。その赤い瞳が鮮やかな血液に似ているような気がして嫌いではないが、涙が邪魔だ、とディストは思った。
「まぁ、この美しい私に惹かれる気持ちは解りますがね。しかし、私が嫌いと言っているのだから、退くのが筋というものではないのですか」
とうとう、涙が頬を伝い始めた。声こそ上げないものの、肩を震わせてしゃくり上げている。その様子を見て可哀相だなどと思わない自分は狂っているのだろうか。僅かにそんな思いが彼の脳を掠めたが、すぐに消え去った。
このまま彼女を放っておいてレポートの続きにとりかかろうかとも思ったが、横でしくしく泣かれては気が散って仕方がない。出て行ってくれないかという意味の言葉を発しようと口を開きかけた時、彼女の方が先に口を開いた。
「嫌いでいい、です」
思わぬアリエッタの言葉にディストは「ほう」と言って彼女を見る。彼女はきゅっと眉を寄せて、ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめて、「いい、です」と繰り返した。
「だって、それだったら、アリエッタが大きくなったら、好きになってくれるってことでしょう?」
そうきたか。ディストは今宵、何度目かしれない溜息をつく。子供は論理的ではない。が、今の思考は飛躍しているというほどでもない。さぁ、この場合はどうしようか。
などと、思考を巡らせていたら、アリエッタが「約束、です」と言ってそのまま小走りで部屋を出て行った。それに焦ったのはディストで、「別に約束したわけではありませんよ!」とその背中に向かって叫んでみたが、彼女は振り返らずに廊下へ消えていき、ドアがパタンと閉じた。
しばし呆然としてドアを見つめていたディストだが、やがてまた溜息をついて机に向き直る。しかし残念ながら、もうレポートを書く気にはなれなかった。
先ほどのアリエッタの言葉を反芻する。
大きくなったら、好きになってくれるってことでしょう?
「・・・さぁ、どうですかねぇ」
元より子供だけでなく人間に興味はない。が、少しだけ、少女が大人へと変貌したその姿を見てみたい気がした。
次の日、ディストは食卓の席でミルクを大量摂取するアリエッタを見かけるのであった。
end
ディスト絡みのノーマルカプがあまりにも少なかったので、
それならばディスアリを布教しよう!と思い立って書いてみました。
同士さん、激しく求む。
2006.8.2.ありさか
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