くるしい・・・覆い隠されるべき




彼女の瞳が、ボクは好きだった。


じっとボクを見つめる桃色の瞳はとても澄んでいて美しく、まるで最高峰の芸術作品のようだった。
どんなに眺めても飽きたらず、ボクは暇さえあれば頬杖をつきながら彼女の瞳を眺める。
彼女にしてみれば、ボクが自分を見つめる理由が分からないだろう。
戸惑いながら、困りながら、けれどボクが眺めている間は決して視線を逸らさない。
ぎゅっと人形を抱きしめてボクを見つめ返す彼女。
一頻り眺めると、ボクは微笑みを浮かべながら頭を撫でて労ってやる。
すると、その瞳はパッと輝きを増すのだ。


ボクの大切な芸術作品。
他の誰かに見せたくはない。
他の誰かを映し出して欲しくはない。
覆い隠されるべき、美しい瞳。


時々、ボクは堪らなくなって、両手で彼女の瞳を隠す。
すると彼女は何も抵抗もせず、ただ困惑した声色で「イオン、様?」と言う。


「ねぇ、アリエッタ。キミのその瞳に、ボク以外のものを映してはいけないって言ったら、どうする?」
「え・・・・・・?」


彼女は何も言わないけれど、その困惑は手に取るようにわかる。


「ごめんね、冗談」


そう言って両手を避けてやれば、また美しい瞳が露になる。
もう一度ごめんね、と言って微笑みかけてやると、彼女は「アリエッタは」と小さな声で言った。


「イオン様しか、見てない、です・・・・・・」


一瞬、思考が止まる。
ああ、これが――これが、彼女の精一杯の、返事。


「・・・・・・ありがとう、アリエッタ」


いとおしい。狂おしい。美しい瞳を持つ彼女。
ボクがいなくなっても、その瞳にボクを焼き付けていて。


どうかボクがいなくなっても、ボクだけを見ていて。












end


お題はas far as I know 様よりお借りしました。


2006.8. ありさか