るおしい・・・食らいつくような静寂




目が離せなくなる。眼鏡の奥の赤い瞳、見てしまうと、視線を逸らすことが出来ない。
彼はきっと計算ずく。私は彼の手の上で踊らされているのだ。
いつもそう。ちっとも思い通りになってくれないくせに、彼はいとも容易く私を操る。
触れようとすれば笑みを浮かべてするりと避け、黙っていれば後ろから手を回してくる。
自分勝手で、食えなくて、隙がない。そのくせ紳士的で、そっと優しく手を差し伸べる。


うんざりだわ、と私はたまに、思う。
けれど、離れようと思ったことなど、一度もない。


年齢差のハンディキャップなんて気にしないけれど、彼に近づくには知恵が必要だ。
馬鹿な子供では触れるどころか近づくことも出来ない。
あの微笑はすべてを跳ね除けてしまうのだから。


「おや、何も言わないのですか?」


極めて至近距離。鼻先に彼の吐息がかかる。触れた指先、手袋の上から彼の手の感触。


「何かを言う必要性を感じません」


言葉は要らない。欲しいのはぬくもりと・・・・・・。


食らいつくような静寂。耳が痛い、心臓が痛い。
時間を忘却させるシステムが静寂にはあって、途方もないくらいの長い時を彼と、至近距離で過ごした気がした。


「大佐」
「何でしょう?」
「大佐の目を見ていると、時々、いらつきます」
「失礼ですねぇ」


赤い目がすっと細くなる。少しだけ彼の呪縛が解けたその隙に、私は背伸びをして彼に口付けた。
目は開いたまま。彼の赤と、私の青が重なる。


一筋縄ではいかない彼に、青い目の呪縛を。












end


お題はas far as I know 様よりお借りしました。


2006.8. ありさか